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僕は頷いたけど、胸中にはもやもやしたものがあった。
まだ、諦めきれていないんだ。
帰国前夜は静かに訪れる。僕は夜まで仮眠をとった。
夢を見た。念願だった彼らの仲間になることができて、うきうきと旅に出る。だけど同行者は彼ではなく、昼間のあの男なのだ。
僕は目を覚まし、心臓をどきどきさせていた。皮膚の下に巡る血のことを考えた。
支度をし、祖母にひと声かけて家を出る。
都会とちがって村では星がよく見える。彼らよりも長い命を持つそれらを仰ぎなから、僕は踊るように赤い森を歩く。懐中電灯の明かりを振り回して、既に酔いしれたような動きをとっていた。
なんだこのイカれた高揚感。終わりを前に諦めのヤケか、楽しさの絶頂なのか。
「あー楽しい」
そこで滑って転倒した。かろうじて受け身は取った。
湿った落葉と土の匂いがする。
夜には金色の星。なんて綺麗。
地はあか色。血の色と呼びたい色。僕は血まみれ。
「大丈夫かい!?」
彼がやってきた。
助け起こしてくれた彼は、赤を貴重としたアーガイル柄のセーターを着ている。
「あっ、似合ってるよ」
僕はにやりと笑った。
はやすぎる前夜の食卓を、いくつものキャンドルの丸い光が取り囲んでいる。明かりが落とされた部屋のなかで、それらは星となる。
「一度やってみたかったんだよね、暗い部屋にたくさんのキャンドル」
僕はワイングラスの赤い液体を揺らす。祖母のものを事前にくすねておいたのだ。
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