はやすぎた前夜

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「帰りたくなーい」  テーブルに突っ伏して、おどけた声を上げた。本当は嘆きたいのに。自分でも滑稽に思う。  僕は彼の返しを待たずリビングの方へ行き、ソファーに飛び込む。 「今日はここで寝させて」 「泊まるのは構わないけど、ちゃんと明日帰るんだよ?」  毛布がかけられる。 「あーはいはいそうだね」僕は不貞腐れる。 「アユムにはやることがある」 「そっちは学校行ってないじゃん、僕の気持ちなんてわからないよ」  大事な夜にこんなことが言いたいんじゃないはず。いや、本当は吐き出してみたかったのか。 「アユム」 「親父なんてさ、久々に真剣な面して向き合ってきたと思ったら、アユムには自立した主体性のある子になってもらいたかったが君は“こういうのが”好きで云々かんぬんだよ。悩みに寄り添ってるつもりだったんだろけど、人の嗜好に水差すんじゃねぇ余計なお世話だっつーの」  これだから大学教授様は、とぼくは当人に届かない嫌味を言って、腕で顔を隠す。 「君たちが羨ましい」 「本気でいってるのか?」 「だって学校ないじゃん」 「学校以外の場所だって大変さ」 「暴力的で官能的で魅入られちゃう」 「そういうことを言うのも人間の業なのかもな」  大きなため息が出た。顔が熱い。酒に酔っていることは自覚していて、それでも口が止まらない。 「学校なんて詰まらないよ。僕なんかが声をあげても多勢に無勢。上に居るやつらは勉強もできるついでに健全な人気者ってだけさ。勉強できても頭が良いとは限らないから、やつらには憧れなんてしてないし」  初対面のとき彼に見せた、恥ずかしいまでの興奮やら愛嬌やら、もうどこかへいっちゃった。ただここにいるのは愚痴っぽい、知り過ぎの振りした知らなさすぎの青二才。
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