捨てたもの、拾ったもの。

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ーーーーーー ーーーー ーー  ふわりふわりと真っ白な雪が空から舞い落ちてくる。手袋を忘れた指先が悴んで赤く色付いていた。広場にある大きな時計へと視線を向ける。時刻は既に23時を過ぎていた。 はぁ……。  無意識のうちに口から溢れたため息がひとつ。約束の時間からは既に3時間以上過ぎていた。スマホを見ても連絡ひとつない。身体は既に冷えきっていて、手足の感覚も鈍い。  いつもの事、そう思ってもなかなか納得いなくて、でも諦めきれなくて結局この場を離れられない。何日も前から楽しみにしていたのに……。ここに着くまでは凄くドキドキとして、自分でも落ち着きがなかったのが丸分かりだった。現にこの寒い中手袋を忘れてきた。 ブブブッ  手の中のスマホが短く震えて、メッセージが届いたことを告げた。見れば待ち人からで、不安と期待でドキドキとしながらメッセージを開いて失望と共にソッとため息をついた。  メッセージに並ぶ文字。何度見てもその素っ気ない内容は変わらない。届いたのはたった7文字。 『行けなくなった』  思い遣りも気遣いも何もない。無機質な飾り気のない言葉。理由くらい、言い訳くらいしてくれても良いのにと思うがこれもまたいつもの事。  でも、今日はそれだけじゃ許さない。覚悟を決めてきたのだ。こんな理不尽な扱いを受ける謂れはない。私だけが我慢して成り立つ関係なんて……そんな関係は虚しいだけだ。  悴んだ手に息を吹き掛けて、メッセージに返信をする。いつもは従順な返信を。今日は、反発の返信を。指が震えてなかなか上手く打てない。寒さが原因か、それとも……。 『どうして? 私ずっと待ってるのに……。 今日は大事な話があるって言ったよね? 来てくれるまで待ってるから』  震える指先で苦労して打った文章。サッと文章を見返して、一瞬の躊躇したが、そのまま送信する。従順じゃなかったのは初めてかもしれない。寒さだけでなく少しの恐怖と不安にブルリと身体が震える。  筆無精な彼から返信が来るか分からない。行けないと言うメッセージですら待ち合わせから3時間してやっと送ってきたくらいなのだ。それでも待つと決めた。今日だけは……。
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