華やかなる帰路

#1

夕暮れの空に白銀の雲が輝く。衣装の裾が美しくはためくのが、花開くようにも見える。実際には見えない理想郷を自分たちの瞳に映し出す。緻密な角度で手首を回し、足を踏み換える。顔の向きや視線の流し方は全てのタイミングで揃えられている。
オフィスに囲まれた夜の小さな公園で、華やかさよりも動きやすい服を着て現実は嫌になってしまうほどの微調整の繰り返しだ。振り付けを覚えているのと身体が動くのとは違う。これは夢のような光景を見せるだけで夢ではないのだから、足はもつれるし目眩はする。体から水が無くなって苦しむときなど夢どころが地獄だ。本番が近づくほど、誰もが緊張しきった表情をして、無言になる。
全てはあの五分間のため。この全ての苦しみをあの五分間で浄化するため。

踊るもの達はいつでも終わりを見ている。自分の両足が自由に動かなくなる時が来ることを知っている。どうせなら華やかな生き様を。憂き世に躍動する色彩を。
右足で一斉に地面を蹴り上げた。空中で体を捻り、幾重にも重なった裾が風を受け、内側に幾重にも仕込まれた目を奪われる鮮やかな布地が跳ね、柔らかくも鋭い流線を描く。煌びやかで軽やかな、無重力のような舞台の上で、宙に浮いている時間は永遠に思えた。