ペトリコール

2/2
前へ
/2ページ
次へ
心の中のざわめきが次第に体に伝わるのはほんの一瞬とも、じんわりとひたひたと迫ってくるようでもあって、立ち止まって自分の手のひらを眺めればやはり、僅かに震えているのが見える。 同じように足元から這い上がる微かな震えも。 心の動揺が体に直接現れるのを見て、頭は逆に落ち着きを取り戻していた。 捨てたものの大きさと、その代償に手に入れたもの。 取捨選択を絶えず行う事が人生ならば、私の人生は正しかったのか… 雨が降り始める時のアスファルトの匂いも、うるさく鳴き続ける虫の声も、もう2度とあの場所に帰れなかったとしても、忘れる事は出来ないのだろう。 いつか未来の自分が激しく後悔する日が来たとしても、それでも何度この瞬間に戻れたとしても、この手をとるだろう。 全てを捨てても、私はこの夢から醒めたくなかったのだから。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加