青春という名の戦争がはじまる Ⅰ

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「れーーーーん!!見てた!?1着はさすがに無理だったけど俺頑張ってたよね!?そうだよね!?」 『うんうん!すごかったよお!なんかうん!!がんばってた!うんっ!!!!!!』 「"うん"が全力!!それ見てなかったやつ!!」 『え〜?見てたよお??』 「もう煉のバカ!俺頑張ったのにー!」 種目を終えてちょいちょいと俺を呼んだ従兄弟がそう拗ねたように唇を尖らす姿を見て「うへえ〜…」と思わず間抜けな声が漏れる。 めんどくさいな、こいつ。 あれから薫が入る月光組とアンカーだった遥が入る青月組はかなり勢力を上げていたのだが、晦組に適うこともなく完敗。 その代わりに対抗してきたのはやはり風紀委員長さまの月代組だった。 風紀委員長さまは出場さえしていなかったが、流石なのか月代組の生徒は「委員長さまに褒めてもらいたい!」「あの方に勝利という名の名誉を!」と口々に言いながら走り、その力を見せつけてきた。 あら、委員長さまってばモテモテね。 そんな馬鹿なことも考えていながら見物させてもらっていたが、結論から言えば引き分けだった。 いやー、あれは盛り上がるのも仕方ないな。とひとり思い出しながら心の中で呟く。 それだけ迫力のある戦いだった。 遥もその王道の力を見せつけると言わんばかりの運動能力でとても速かったが、こちらの生徒と月代組に入る生徒はそれ以上に足が速かった。 もちろん双方の運動能力が全く同じという奇跡はなかった。 寧ろ走り出しではこちらの生徒の方が遅く感じ取れた。だが、さすが会長さまが団長の組と褒めるべきなのか彼はそのプライドと根性で追い上げてきたのだ。 それからは双方並んでの競走となった。 お互いがお互いの全力を見納めようとしている、そう言ってしまうくらいに彼らは必死だった。 だからか引き分けというあまり気持ちよく感じないだろう結果を残しても、双方とても清々しい表情をしていた。 「案外楽しませてもらったよ。」 「それはこちらのセリフさ。また戦えるのを心待ちにしているよ。」 そんな少し痛い会話を大勢の生徒の目に触れたところでしてしまうくらいには。 熱い握手までしていたのでいつ抱擁をするのか気が気でなかった。萌え期待はすはす。 そのふたりは今どうしているのだろうか。 先程のことで拗ねる薫を宥めながら当の本人たちの姿を目で追う。 あ、いた。 「戦友と呼んでもいいかな、我が好敵手(ラ イ バ ル)。」 「お願いだから普通に呼んで!!俺たかし!!」 「そうはいかないよ、戦友。」 「既に遅しってか!!つーかお前絶対元々そんなキャラじゃないだろ!な?!戻ろ!?俺もあん時はノリノリだったけど後々考えたらコレ絶対ただの黒歴史でしかないから!な!?俺たかし!!」 「( -ω- `)フッ。さっきから右手が疼いてならないよ、戦友。」 「聞けよおおおおおお俺たかし!!」 「俺たかし!!」が語尾になりつつある生徒に向かって同情の視線を送る。(´・ω・`)カワイソウニ。 ……げ、戦友サン俺らの組の生徒じゃん。 そういえば心做しか同情の視線を送っていた俺にも数々の同情の視線が刺さっている気がしなくもない。 右手が疼いていらっしゃるらしい(笑)戦友サンはどちらかというとチワワな容姿をしている。 なので野郎の中にはチワワな容姿のくせに運動能力が高いというギャップにやられているやつも見る限り結構存在した。 現在はその半分が彼の右手の疼き(笑)によって減少したようだが。 「煉のバカバカバカバカ」 『ごめんねえ!わあ!許してくれてえありがとお! ばいちゃ!!』 「えっ、はあ?ちょ、れ、煉…!?!?」 戦友サンとたかしくんの会話も(が)とても気になるので薫に別れを告げると俺は颯爽と自席に向かった。 背後からは大きい声で俺を呼ぶのが聞こえた気がしたが気の所為だと思うことにした。 席に戻れば疲れた顔をして座る会長さまの姿が視界に入った。 え、事後ですか?とツッコミを入れたくなるほどの色気ダダ漏れだった。え、なにそれ詳しく。 『会長さまあ!お相手はどなたですかあ?』 「あ?何言ってんだ貴様。」 やだ、会長さまお言葉が厳しい。 鋭い視線と共に放たれた言葉に「冗談ですよお!」と声を掛けた。 その冷たい視線で俺は気持ちよくなりませんよ薫にやってあげてください喜びますよ(違う意味で)。 「貴様も先程の様子を観てただろう。」 『戦友サ…えっとお、たかしくんですよねえ?』 「………春川 渚と新島 貴志だ。今から話しかける相手だ、覚えとけ。」 ハルカワくんとニイジマくんね、了解。 うんうんと頷きながら理解していくと「あれ?」と思わず首を傾げる。 「話しかける」とはどゆこと。え、やな予感。 「新歓の特典デートの時のことを忘れたとは言わせねえぞ。レン、あいつらを連れ戻して来い。」 『え、それはあ…僕がしなくともお…。』 「アレがか?」 会長の視線を追えば未だに騒いでいる生徒がふたり。で、でもコレって風紀委員とかが…。 「アレ程度で風紀委員沙汰をする理由になるか?」 『……』 たしかに…風紀委員のお世話になるにはあまりにしょうもなすぎる、、。 「レン」 『かしこまりましたあ!』 新歓特典デートで会長を生贄にしてしまった過去の俺許すまじ。
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