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俺が某ネズミキャラクターのモノマネが異様に上手いことは置いておいて、ぱっと隊長の姿を視界に入れる。
会長と話している間にスタートを切ったのか隊長は既にその手の中には二つ折りにされた紙を開けて持っていた。
どんなお題になったのだろう、と好奇心をむき出しに紙を見つめる隊長を見つめる。
願望を言うなら、あっくんとおててをつないで走ってほしいな。
あっくんもそりゃあ喜ぶでしょうし。
……あっくんと隊長の馴れ初めもぜひ聞きたい。
隊長ってば、何度も訊いているのに頑なに教えてくれないんだよね。
まあ、その馴れ初めが隊長の偽チャラ男演技に原因があるからだと推測しているのだが。
おそらく数秒とわずかな時間で紙を見つめていたのだろうが、俺にはそれが長く感じられた。
だって!!!気になるじゃん!!!!
《おお!会計さまにも負けないチャラ男と呼ばれる親衛隊隊長 結城 燿が走り出しました!
チャラ男が選んだ相手とは…!ずばり!!!》
相変わらず、日々注目を集める生徒に目を向けさせる放送委員。
それを苦笑気味に眺めながら、生徒会席へ目を向けた。天下の会長さまの席にはだれも座らず、その周りに配置された席に各役員さまたちが座っている。
心做しか副会長さまが会長さまを睨んでいる気がする。あ、たぶんこれ気のせいじゃない。
睨まれている本人を窺うが、その表情は先程から全く変わっていない。
動じなさすぎる。あれですか慣れですかイチャイチャしやがってこのやろうもっとしろ。
『会長さまはいい加減戻ったらどうですう?』
「俺様がいないと困るのはおまえだ」
「は?なんだそれ」と言いそうになるのを留めると、俺はサッと辺りを見渡した。
─────あ。
好奇の視線、嫉妬が込められた鋭い視線、嫌悪感を漂わせる冷たい視線。そこで気付く。
そうだ、俺は親衛隊副隊長なんだ。
少し前までは大神くんから「親衛隊は嫌いだ」と何度も口にされていた。
その時は俺を嫌いな人は俺も嫌いだ、と何も見ないようにしていた。だが、こうまで嫌悪を露わにしてくれる方がこちらも楽だし、その行為も嫌いではない。
問題は影でその感情を俺に押し付けてくる人。
『悪いのは会長さまですよお』
「……そうだな」
違う。これは会長さまが俺と仲良くおしゃべりをしなくとも、この視線はずっと俺たち親衛隊に向けられていた。
周囲の優しい人達に絆されてしまったのだろうか。
いつしか友達と呼べる人間が増え、安心していた。
親衛隊という集まりに入る俺を慕ってくれる人達もいるのだと。
隊長はそれを利用して偽チャラ男隊長を演じているということも知っていたのにいつしか見ないようにしていた。
胸の奥が嫌な音を立てた。
ズキ、と痛みを感じた。なんだか無性に情けなく感じ、泣きたいような衝動に駆られた。
やだな、さっきまで楽しい体育祭だったのに。
周囲の視線を気にしている自分がいる。
こんなの今更なのに…。
元々転入してきた俺に対しての態度は決していいものではなかった。
萌えだけを期待して入ってきたことに少なからず自分自身のその甘さに嫌悪した。
可愛いと言われるこの顔と筋肉がつくことのない華奢な身体。この容姿のせいで転入してきた俺はよく大柄な生徒に襲われそうになったり、チワワたちからもやっかみを買ったりしていた。
はじめて自分が腐男子であることを恨んだっけ。
『……っはは』
「おまえ、」
思わず乾いた笑いが零れた。
戸惑うようにこちらを窺う会長の姿を見つめながら、「なにやってるんだろう…」と目を細める。
こんなの今更すぎることは分かっている。
親衛隊である俺が嫌われている、なんて分かっていたことなのに。ほんと…なにしてるんだろう。
「──俺のカワイイ後輩をいじめないでくれない?」
『……っ!た、隊長お…ッ』
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