青春という名の戦争がはじまる Ⅰ

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突如、視界に現れた隊長の姿に目を見開ける自分がその瞳に映っていた。 ああ…こんなにも情けない顔しているんだ俺。 涙が零れそうになるのを必死に抑えて、隊長をもう一度呼んだ。 今度は震えないように。しっかりその耳に届けるように。 そんな俺に隊長は優しく目を細める。 「貴様は…」 「会長さまぁ〜?俺の煉ちゃんをいじめないでくれません?」 「お、俺様は…!」 「はは…っ。冗談だってばぁ〜、会長さまは煉ちゃんを守ってくれてるもんねぇ〜。」 「……っ、だが」 「会長さまはぁ、そのままでいいんだよぉ〜」 「ねぇ?」と首を傾げて言う隊長に悔しそうにその端正すぎる顔を歪める会長。 なんでココにいるんだろう、とふたりを見ながら働かない頭でなんとか考えてみる。 元はと言えば、俺の責任だ。 親衛隊に入り、副隊長という役職を担われた俺の…。 なのに俺はいつも温かく迎えてくれる人達に守られ、助けられていた。 心底自分が情けなく思え、また沈んでゆく。 そんな俺を見ていたのか隊長は俺の腕を引き寄せ、その腕の中におさめた。 『た、隊長お……?』 困惑ながらそう呼べば返ってくるのは優しいその笑顔だけ。いつの間にか注目されていたのか、その隊長を見た生徒たちは黄色い歓声を上げた。 いつもは下半身ゆる男やチャラ男、淫乱とかなんとか言って隊長を卑下するくせに。 そんな生徒たちに嫌気をさしながらも俺は俺を抱き寄せた隊長の顔だけを眺める。 この先輩は種目中だというのに俺を見兼ねて助けてくれようとしている。この先輩は…なんでこんなにも優しいのだろう。 そこで、偽チャラ男総受けだとか言っておいて、実際は俺もその中に入っているのかもしれないと思った。 優しすぎるのが長所で時には短所。 それがあまりにも不器用に感じられるが、同時にその心の温かさに安心して甘えたくなる。縋りたくなる。 これがBL小説に出てくる王道転校生の正体だとすれば、王道転校生ってすごい。 総受けになってしまうのも仕方ないよな、と思う。 ……こんな先輩だからこそ、俺はついてきたんだ。 「ねえ、煉ちゃん。 僕が守ってあげるからたくさん甘えてよ。大丈夫。 煉ちゃんを嫌いな人もいるかもしれないけど煉ちゃんは知ってるんでしょ。煉ちゃんを好きだって言ってくれる人がいることを」 『…った、隊長…!口調が…』 「え〜?僕知ってると思ってたんだけど」 「間違ってた?」と俺にしか聞こえない声で話していた隊長はそうまた小さく俺に尋ねる。 それに首を横に振り反応すれば、嬉しそうに笑った。 「僕は煉ちゃんが大好きだよ。あざとくて賢くてかっこいいヒーローだよ。あの時僕らを助けてくれたもんね。」 『──あっ』 親衛隊に入ったばかりの頃だった。 以前会った自分をモブだからと言いはる吉倉先生と付き合っている立花先輩が寂しくて会長さまと浮気をしていたらしい。 それを見かねた隊員が立花先輩に制裁をしに行った、当時の隊長に止められていたのにも関わらず。 そこで制裁をしようとした隊員たちは立花先輩が味方につけていた生徒たちに襲われそうになった。 それを助けに入ったのが隊長だ。で、その隊長を助けたのがたまたま近くにいた俺だった。 ……確かあの時、柄にもなく焦った俺は隊長を叱ったんだっけ。 ちょっとぶりっ子したから大丈夫だろうと思っていたのだが…怪しまれていたか。 思い返せば、あれから数日少しだけ隊長から観察するような視線を感じていたっけ。忘れてたなあ。 「だから、今度は僕が君を守らせて欲しい。」 『隊長…。』 「ふふっ。力は煉ちゃんには敵わないだろうけど、権力はそれなりにあるはずだよ。特待生だしね」 少し勝ち誇ったようなそんなドヤ顔で言われると、思わず小さく笑ってしまった。 涙が目の端に滲んだが、それもあともう少し時間が経てば止まっているはずだろう。 こんなにも頼れる先輩が傍で俺を支えようとしてくれているのだから。 「僕と来てくれる? 煉ちゃんが借り物らしいんだよね」 『もちろんですよ、隊長。』 笑顔でそう返せば、嬉しそうに隊長は目を細める。 そして──。
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