青春という名の戦争がはじまる Ⅰ

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これではただの時間の無駄遣いなのでとりあえず「分かったあ」と頷き、委員長が去るのを見送った。 さて、全く分からなかったぞ。 委員長。容姿だけ見ればThe委員長だし、ぴったりな役職だが中身が伴っていないマジで。 敢えて覚えない主義なのがより腹を立たせる。 しかし、不思議だ。 先程顔の特徴を尋ねれば珍回答が返ってきたが、彼は名前を覚えない代わりに顔を覚えるのは得意なのだ。 そんな彼が覚えられないということは新ペアの子は特徴のない顔をしていたのかもしれない。 それだと納得出来る。 イケメンはイケメンでも、影の薄いというか記憶に残らない顔の人はたまに存在するのだ。 「Aクラスの委員長はキャラ濃いわね」 「星谷もその一存だと思うぞ」 「うそん!どこがよ!?」 「 そ こ だ よ 」 隣の漫才を横目にパスタをフォークで掬い、ゆっくりそれを咀嚼する。 あーあ、せっかく練習したのになあ…。 モブくんには悪いことを言っている自覚があるが、残念なものは残念である。 それだけモブくんとの練習の日々は精神を削るものだったのだ。 仕方ないことだし、モブくんには安静が一番なのも分かっているが沈む。 「……ええっと、煉。大丈夫?」 斜め前の席に座る爽やかくんが心配そうにこちらの顔を窺ってきた。 いけない、不安を読み取られてはいけない。 『うんっ!仕方ないもんねえ〜、頑張るよお!』 「そっか。……あ、あのさ。 本当はさっき聞きたかったんだけど…」 そういえばそれを田中くんに遮られたんだった。 先程の状況を掘り返しながら、口籠もる彼の様子を眺める。 パクリ、とパスタの最後の一口を口に放り込んだと同時に爽やかくんは口を開いた。 「……さっきの借り物競争で隊長さんに…その、お、お姫様抱っこ…されてたけどあれはなんであんなことに……?」 躊躇いがちに尋ねられたそれに彼の先程の言動に納得する。 男子高校生が男子高校生にお姫様抱っこされてたらそりゃあ気になるし、尋ねにくいよねわかる。 つい苦笑してしまい、返答に遅れる。 『えっとねえ』 「ちょ、ちょっと待って!!なにそれ俺知らない!」 「れ、れれ煉?!なにされてんだ!?俺その時いなかったし!」 「……チッ」 何と説明しようかと迷いながらも放った言葉を遮られ、薫と遥が多少前乗りになりながら反応する。 俺の向かいの席ではお姫様抱っこという体勢になにか恨みがあるのか、と問い詰めたくなるような苛立ちが含まれた表情で舌打ちをする大神くん。 え、なに。そんなに俺がお姫様抱っこされたのに驚いたの?いやわかるけど。 ……これがBLだったら嫉妬というテンプレなんだろうな、と妄想を加えながらもどう話そうかと思考をめぐらせる。 『…ええ〜とお、あ、足を痛めてたのに隊長が気付いてねえ〜…あんな体勢になりましたあ』 「あっ、そう、だったんだ。……よかったって良くねえ!足!今は大丈夫なのか!?」 『あ、うんっ!ちょっとした怪我しただけだから全然だよお!』 「煉、午後からかなりの競技に出るよね?無理は禁物だからね、無理そうだったら俺が代わるし」 『ありがとお〜!爽田くんっ!』 「……ん」 安堵のため息を零す遥と照れたようにはにかむ爽やかくんぐうかわ。 かなり苦し紛れな言い訳だったと思うが、よかった。この様子だと疑われてはいないみたいだ。 ……あ、やべ。信じていないのがふたりいる。 拗ねたように唇を尖らせる薫(可愛くねえよ)とこちらを睨んでくる大神くん(きみはただただ怖い)。 ふたりとも全くと言って信じてくれていない。 頼むから信じろ。 あれは理由のない体勢だった。隊長の気まぐれ。 てか一番理由を欲してるのは俺だからね。 ちなみにこれが原因で爽田くんと遥と薫、そしてなぜか大神くんまでにもお姫様抱っこをされたのは少し先の話なのだが、この時の俺には知る由もなかった。
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