カットソーと

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カットソーと

 諸君は“ドツボにはまる”という言葉をご存知だろうか。  詳細な語源やら出自やらは僕にはわからない。ドツボなのかノツボなのかもよくわかっていない。しかし、昨今、使われる意味でいうと今の僕の状況を指す。  非常にまずい。  あと十分以内に家を出なければ、電車に乗りそこなう。待ち合わせに遅れる。相手が怒る。最悪の結末が待っている。  だが、服装が決まらない。  さきほどから自室の真ん中に突っ立ち、姿見に移るやせ細った男を視界の端に捉えていた。中腰のまま身体は動かず、汗をどろどろと噴き出していて、不快感を抱かずにはいられない絵面だった。  僕は子どもの頃に沼にはまったことを思い出していた。身体は沼にどんどん沈んでいき、もはや足をあげることすらできずにいた。思考は同じところを何度も行き来し、しまいに目を回してひっくり返った。  どうしてこうなったのか。今朝は当初の出発予定時刻の二時間前に起床したはずなのに。万年床に横たわり、なぜ僕がこのような事態に陥ったのか、底の見えない沼地に飛び込むことになったのか、改めて見直していく必要がありそうだと考えた。時間ないけど。  この文書を読んだ方にもハイライトをご覧いただきながら、解決策をともに模索していただきたいと切に願う。  できるだけ速やかに。
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