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服はどうしようか。もう訳が分からない。部屋に戻ってからすでに五分以上が過ぎていた。
僕は部屋の真ん中に仰向けに寝転がっていた。服飾の沼にまんまとはまり、泥は腰まで迫っている。お嬢さんに遅れると連絡を入れよう。きっと彼女は大丈夫だと、のんびりきてくださいと、笑って赦してくれるだろう。でも機嫌は損ねる。お嬢さんはそのイライラを僕には言わないだろうし、僕もそれに深く関わることができないだろう。
それはいやだな。
傍からみたらどうということもないのだろうか。でも僕はもっとお嬢さんと気楽にいたいのだ。お嬢さんの気持ちを煩わせたくないのだ。
お嬢さんと付き合い始めたころのことを思い出した。まだ一年と数カ月だが、もうずっと昔のことに思える。なんとも面はゆい、青臭い思い出だ。彼女は散策が好きで、休みの日はふたりで何キロも街中を歩いたものだ。僕は普段しない運動ができると言い、彼女はダイエットにちょうどいいと言った。彼女の琴線に触れた喫茶店を見つけてはコーヒーとケーキを食べるので、カロリーの収支はマイナスにはなっていなかったろう。
思い返すと微笑ましいな。今日もこんな素敵な一日になるはずだった。
いや、まだだ。諦めている場合ではない。
そもそも予定していた電車は集合時刻よりも十分少し早くにたどり着くように設定していたのだ。つまり、十分後に来る次の電車に乗れば、ギリギリ間に合うのだ。
寝っ転がっている場合じゃないぞ。
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