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スニーカーと
僕は駅までの道のりを全力で走っていた。
途中で雨が降り出したが、傘を出している余裕はない。
とにかく、電車に乗るんだ。
タグにバツ印のついたカットソーに太めのネイビーのズボンを穿き、足元は黒いスニーカーだ。走るにはこれが一番だ。
湿度と気温とで、汗が止めどなく流れている。
大量にかいた汗はこのままでは悪臭に変わるだろう。お嬢さんと会っても距離を置いておかないといけないだろう。
それでも遅れるよりはすっと良いのだ。
改札のバーを蹴り飛ばし、階段を一気に駆け上がる。上がりきったころにはむこうずねあたりの筋肉が引きつるだろう。日頃の運動不足が足を引っ張る。
ホームにたどり着いた。停車していた電車の最後尾で車掌が出発前の安全確認をしていた。
「すいません。乗ります」
僕は倒れこむように車内に飛び込んだ。扉は閉じられ、電車はゆっくりと動き出した。
〈駆け込み乗車は危険ですので、おやめください〉
車掌のアナウンスが響いた。申し訳ない。
間に合った。本当によかった。
土曜日の昼間で座席の空きも多い。僕は近くの席に陣取り、ティッシュで汗をふき始めた。未だ整わない息に隣の主婦が嫌そうな顔をしてくるが、どうにもできない。時間が解決するのを待っていただきたい。 お嬢さんに電車に乗ったと伝えよう。
スマホをカバンから取り出すと、通知が来ていた。お嬢さんからだ。
『すみません。少し遅れそうです(焦』
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