カットソーと

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 卵は朝食として目玉焼きに熱変性させるつもりだ。僕は実家暮らしではあるが、もういい歳なので親はあまり僕の世話はしてくれない。そういえば、休みの日は割と台所に立つことが多くなってきた。気が付くと揚げ物担当に任命されていたが、甘んじて受け入れている今日この頃だ。  プロテインは先々週くらいから食事に取り入れだした。春の健康診断でやせすぎだと言われたからだ。まあ、生まれてこの方、適正体重に至ったことはない僕の体だ。自動販売機程の背丈ながら横幅はそれの半分以下である。手足はひょろひょろと菜箸を思わせる。食べても食物が身に付きづらいし、そもそも胃が小さいので量が食べられないのだ。無人島に放りだされたら間違いなく一番初めに飢えて死ぬだろうと友人(BMI:30)にも言われた。体が軽くて筋肉も少ないとなると、体力ももちろんない。病気にもかかりやすくなるらしい。やせすぎのリスクを回避すべく、僕は朝晩にプロテインを摂取する。  親からすれば、僕ももうあと数年で自分たちのような豊麗な存在にランクアップするだろうと思っているようだが、今のところその兆候は見られない。 『お兄さんは太ってください。私は痩せてみます』  健康診断の結果をうっかり彼女に伝えたのは間違いだった。どうやら地雷を踏んでしまったようだ。口元は笑っていたが、両目は見開かれていた。彼女の大きな瞳に有無を言わさない圧力が生じ、圧はその場で僕のスマホからネット通販のプロテインを購入させた。     
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