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これらを解決するための服を考えよう。清潔感のある服装。一体感のある服装。部屋をぐるりと見渡した。目の前の鏡、左手のラック、右手の本棚。僕の部屋にはクローゼットがない。部屋の一辺に金属のラックを組み立て、衣類や旅行カバンなんかを詰め込んでいる。
僕はラックの一番手前に吊ってある服に目を留めた。
「スーツか」
スーツ。それは男の戦闘服。ジャパニーズボーイのユニフォームである。冠婚葬祭、困ったときはこれに限る。スーツは黒以外にもネイビー、グレー、黒地に青いラインの入ったもの等、様々な状況に対応できるように揃えられている。ドレスシャツは他にも色や飾り気のあるものもあるし、シルエットもタイトなのとゆったりなのとがある。綿のワイシャツは平日に必要だからやめておく。
僕はその中で、白いスーツを選んだ。麻の独特の風合いのあるスーツだ。買ってからしばらく経つが未だに袖を通していない。買ったはいいが、平日は着る機会がなかったのだ。
清潔感もあるし、時季的にもちょうど良いだろう。
シャツはどうしようか。ショップの店員は黒を勧めていたが、どうだろうか。実際に合わせたら避暑地のマフィアみたいになったのだが。店員も笑顔の内側に僕と同じ感想を抱いていたようだった。
よし、黒はよそう。
スマホで白いジャケットを着ている外国人の画像をいくつか眺め、淡い水色のシャツに決めた。ハンガーに吊ったスーツにシャツを合わせてみた。爽やかだ。
早速着替えよう。十分ほどで決まったぞ。
ズボンを脱ぎ、シャツに手をかけた。
鏡の前でシャツを羽織り、上からボタンを留めていく。みぞおち辺りまで留めたところでふと手が止まった。
「うーん」
下着、ヨレヨレだなあ。パンツも色あせているし、ゴムもだいぶ緩くなっている。
今日はお嬢さんとカフェに行って、その後はショッピングモールでの買い物に移行し、夕方には各々の家に帰る予定だ。下着を見せるような展開にはならないとは思いつつも、わずかに期待してしまうのが男の性なのだ。
しかし、洗濯物のローテーションからすると余分はない。先週までの長雨で洗濯物は生乾きなものが多い。本棚の上に無造作に積まれた下着の山を見つめ、パンツや靴下の数をひとつふたつと数えてみた。
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