麻のジャケットと

2/4
前へ
/14ページ
次へ
 これらを解決するための服を考えよう。清潔感のある服装。一体感のある服装。部屋をぐるりと見渡した。目の前の鏡、左手のラック、右手の本棚。僕の部屋にはクローゼットがない。部屋の一辺に金属のラックを組み立て、衣類や旅行カバンなんかを詰め込んでいる。  僕はラックの一番手前に吊ってある服に目を留めた。 「スーツか」  スーツ。それは男の戦闘服。ジャパニーズボーイのユニフォームである。冠婚葬祭、困ったときはこれに限る。スーツは黒以外にもネイビー、グレー、黒地に青いラインの入ったもの等、様々な状況に対応できるように揃えられている。ドレスシャツは他にも色や飾り気のあるものもあるし、シルエットもタイトなのとゆったりなのとがある。綿のワイシャツは平日に必要だからやめておく。  僕はその中で、白いスーツを選んだ。麻の独特の風合いのあるスーツだ。買ってからしばらく経つが未だに袖を通していない。買ったはいいが、平日は着る機会がなかったのだ。  清潔感もあるし、時季的にもちょうど良いだろう。  シャツはどうしようか。ショップの店員は黒を勧めていたが、どうだろうか。実際に合わせたら避暑地のマフィアみたいになったのだが。店員も笑顔の内側に僕と同じ感想を抱いていたようだった。  よし、黒はよそう。  スマホで白いジャケットを着ている外国人の画像をいくつか眺め、淡い水色のシャツに決めた。ハンガーに吊ったスーツにシャツを合わせてみた。爽やかだ。 早速着替えよう。十分ほどで決まったぞ。    ズボンを脱ぎ、シャツに手をかけた。  鏡の前でシャツを羽織り、上からボタンを留めていく。みぞおち辺りまで留めたところでふと手が止まった。 「うーん」  下着、ヨレヨレだなあ。パンツも色あせているし、ゴムもだいぶ緩くなっている。 今日はお嬢さんとカフェに行って、その後はショッピングモールでの買い物に移行し、夕方には各々の家に帰る予定だ。下着を見せるような展開にはならないとは思いつつも、わずかに期待してしまうのが男の性なのだ。  しかし、洗濯物のローテーションからすると余分はない。先週までの長雨で洗濯物は生乾きなものが多い。本棚の上に無造作に積まれた下着の山を見つめ、パンツや靴下の数をひとつふたつと数えてみた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加