月夜と檸檬

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「サクラミズキって、本名?」 「女っぽいってよく言われるけど、本当に本名」  桜とハナミズキを連想させる名前の男から花を贈られる、というのもなんだか面白い。 「何時間かかった?」 「九時間。家出たの、夜中の二時だから」 「眠くない?」 「眠いけど、大丈夫」  年上のぼくに対して、瑞季ははじめから敬語を使わなかった。そのことが却ってぼくには気楽だった。 「最後の方、走りが悪くなったんだ。踏んでも速度が出ないし、エンジンの感じがいつもと違うって言うか……」 「あ、それはまずい。……ちょっと見てみようか」 「うん」  瑞季がボンネットを開け、ぼくはエンジンルームをチェックする。 「走行中、変な音がしたりは?」 「それはなかった」 「ここ、」  ぼくが指さすと、瑞季が「うわあ……」と頭を抱えて唸り出す。 「冷却液、洩れてる。このまま走ると確実にオーバーヒートだ。……無事に辿り着いてよかったな」 「やべ。来たのはいいけど帰れない」 「応急処置して、あとは様子見ながら水をつぎ足していけばなんとかなる」  項垂れている瑞季に、「とりあえずうちに帰って、昼飯食べてから作業しよう」と声をかけると、「じゃあお願いします」と言って彼はぺこりと頭を下げた。
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