月夜と檸檬

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 瑞季とは、その日が初対面だった。もともとネットで知り合った関係で、知っているのは彼がTに住んでいることと、年齢が二十一であること、そして名前が「サクラミズキ」であること、それだけで、それが本名なのかハンドルネームなのかも知らない。  趣味が車で、一人暮らしの男の元に泊まりに来ると言うのだから、当然男だろうとは思っていたが、いかんせんこの名前からでは謎だった。それでも今さら「きみは男の子? それとも女の子?」と訊くのは、なんとなくばつが悪い気がして、結局聞き出せないまま彼(あるいは彼女)を迎える日となった。  待ち合わせの公園で、車から降りてきた「サクラミズキ」は、男、女、正直どちらにも見えた。小柄で華奢な身体つきに、黒髪の、襟足の伸びたショートヘア。ダークグレーのTシャツに濃紺のデニム姿で、バーガンディのセルフレーム眼鏡を掛けている。  暗い色の服装だからか、肌の白さが際立って見えた。薄いくちびるに、長い睫毛。中性的、という表現がぴったりな容姿だ。 「あの、サクラ……」 「君」とも「さん」ともつけられず、曖昧に発したぼくの言葉に、サクラミズキはぺこりと頭を下げながら、「あ、佐久良です」と言った。その声でようやくぼくは、彼が男性だと認識したのだった。  挨拶もそこそこに「これ、」と言って彼は車の後部座席からビニール袋を引っ張り出し、中身を取り出してぼくに差し出した。それは黄色いペチュニアの花が咲いた小さなポットで、「え?」と首を傾げたぼくに、瑞季は消え入るような声で「お土産、買ってくるの忘れたって気づいて、途中の道の駅で買ってきたんだ。キレイだったから」とつぶやいた。 「ありがとう。本当に、きれいだ」  思いがけないプレゼントが嬉しくて、頬を緩ませながら受け取った。人見知りなのだろうか、瑞季はそんなぼくの顔を一瞬だけ見つめて、すぐに視線を逸らしてしまう。
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