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「一週間前に面接受けたんだけど、不採用だったから。落ち込んでたところにモトさんからメッセージが来たから、思わず言っちゃったんだ」
「きみはまだ若いから、この先いくらだってチャンスがあるよ」
瑞季は一瞬ぼくを下から睨むような視線で見つめた後、即座に「いや」と首を横に振った。
「そうやって、若いからとか逃げ道作ってのらりくらりと生きていると、気づいた時には手がつけられないほど澱みきった人間になってしまう」
「……」
「それだけは、はっきりと分かってる」
ゆっくりと、噛みしめるように発した瑞季の言葉は、ぼくの無責任な言葉を真っ正面からはね返すような力強さだった。
「……ごめん。これだから年取るのは嫌だよな」
ぼくの言葉に、瑞季がふっと笑った。
「そのくらい、強い自分を持ってるきみだから、大丈夫だってぼくは信じてるよ」
「……うん」
「本当にやりたいこと、見つかるといいな」
「うん」
そう頷いてから、瑞季は鶏の唐揚げに箸を伸ばす。話すのと同じように、ゆっくりと少しずつ口に運び、それでも細い身体にはとても入りきらないと思えるほどの大盛りを、残さずきれいに平らげてから「ごちそうさまでした」と再び行儀よく手を合わせた。その気持ちのよい食べっぷりと、立ち振る舞いから伝わってくる育ちのよさみたいなものを、ぼくは心から好ましく思った。
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