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昼食の後、早速車の応急処置に取り掛かった。父親から譲り受けたという瑞季の軽自動車は十五年前の型式で、走行距離はもうすぐ二十万キロに届きそうだ。ぼくの車も同じ型式で、走行距離もほぼ同じくらいだ。いくら大切にメンテナンスして乗っていても、あちこちにガタがきてしまう。
社会人になって初めての大きな買い物が、車だった。ひとりで乗るのだから軽自動車で十分、だからこそ納得がいくものに乗りたいと、あちこちのディーラーを回り、一目惚れしたのが現在の愛車だ。購入してからは、ドライブはもちろんのこと、とりわけメンテナンスに夢中になった。もともと機械いじりが趣味のぼくにとって、車は最高の玩具でもある。車好きが集まるSNSで、同じ車種に乗っている仲間たちとの情報交換や交流を楽しむ日々だ。そんなぼくのSNSにやって来たのが、瑞季だった。
作業が終わってからも、瑞季の質問にあれこれと答えながら、昼日中を庭で過ごした。一日を通して快晴で、太陽の光をたくさん浴びたから、夕方になって家のなかに入る頃には顔がひりひりと痛んだ。瑞季の白い肌も、鼻や頬の辺りがうっすらと赤くなっている。
瑞季が風呂に入っている間にハンバーグとサラダと味噌汁を作り、さっと湯に浸かった後、夕飯を食べた。
「モトさん、めちゃくちゃ美味い」
そう言ってにこにこと笑いながらおいしそうにハンバーグを頬張る瑞季の顔を見つめながら、ぼくはビールを飲む。いつもひとりの食卓が、今夜はこんなに明るく華やいでいる。そのことが、とても嬉しく、いつもよりもハイペースで飲んでしまう。
ぼくに付き合って一本だけビールを飲んだ瑞季の顔はとろんとして、瞼がいまにも落ちそうだった。
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