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まぁ、それでも嬉しいけど……。
東は苦笑いをして言う。
「ありがとう。でも、若くは見られるけど。ほら、俺はこの歳で安定してないしさ。おかげで失恋ばかりだよ。おまけに頭も悪いし」
新庄はさっき注文したヨーグリートを一口飲んで言う。
「失恋した事がない人には、自分で考える力がないと思うんです。だってキルケゴールなんて、彼の哲学すべて失恋でできているようなものじゃないですか?」
……始まった。
東はいつものが来たと思った。
新庄はお酒がすすんで来ると、いつも哲学から文学、社会学、経済学、宗教などの小難しい事を、会話の中に入れて来る。
しかし、東はそれが嫌いではなかった。
……そうか。
新庄くんが俺と飲みに来るのは、こういう話を俺が嫌がらず聞くからだな。
今さらながら、そう思う東だった。
「自分で考える力かぁ。俺にそんなものがあるとは思えないよ。仕事もミスばかりだし。こないだも、間違えてプレス機を壊したばかりで、慌て過ぎて嘘ついちゃうし」
「たしかに東さんは、抜けてるところがありますよね」
「キツイなぁ。新庄くん」
東はまた苦笑いで返した。
乾いた笑みを浮かべながら、東が言う。
「まぁ、俺は抜けていても、人並みにって生活を求めているんだよね」
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