第3話 人生に確実な答えなどない

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それを聞いた新庄は、身を乗り出した。 「本当ですか? そうは見えないな。そんな生活したって、東さんが幸せになれるようには見えませんよ」 東はそう言われ、ジョッキに残ったコーラハイボールを一気に飲み干した。 飲み干してから東が言う。 「幸せじゃないかもしれない。でも、きっとそれが正しいんだよ」 新庄は鉄板の上にあった、冷めた牛サイコロステーキを平らげ、メガネの位置を直しながら話す。 「現象学的にいうと正しい認識という問題は、正しいか? 間違っているか? という枠組みではなく、どの程度の確信と納得ができる条件があるか? という枠組みで考えるみたいですよ。東さんは人並みの生活を正しいと言っているが、納得しているように見えない」 東は思う。 ……現象学。 たしかフッサールだっけ? ヘーゲルか? いやどっちもだったかな? 新庄くんって若いのにすごいな。 「聞いてます?」 「ちゃんと聞いてるよ。でもね。新庄くんの言っている事はわかるんだけど。みんなが出している答えって、結局、そこな気がするんだよ。幸せに見える人って生活が安定していて、何事にも無関心で、文句を言いながらも、ちゃんと家族と過ごしている人が多い気がするんだ」     
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