第3話 人生に確実な答えなどない

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東がそう言うと、新庄は店員を呼んで、マリブミルクを頼み、東のコーラハイボールも注文した。 注文が終わると、にこやかに新庄は言う。 「人生に確実な答えなどない事は誰でも知っている。それでも進み、揺らいでいく中で、生きるための手応えみたいなものは感じられるんじゃないかなぁ」 東は思う。 ……生きるための手応えか。 今の生活にそんなものがあるか? 安月給で馬車馬のように働かさせ、両親にも追い詰められ……。 そう思う東は、店員が持ってきたコーラハイボールを一気に飲み干した。 ……でも、こんな俺を好きになってくれた人の多くはいなくなってしまった。 全部、俺のせい……。 だからこそ、せめてまっとうに……。 東のその感情は、悲しみの涙でできた暗い水の中へ沈んでいくようでもあった。 もう泣き喚いたりする事はないが、悲しみが癒える事はない。 そればかりかいっそう深まるばかりだった。 その影響か、東は二つのものを失った。 涙と言葉である。 ある時から、涙は瞳からではなく胸に流れ、先ほど言った水が()まっていく。 その中に沈んでしまうと、もう他人に助けを求める声を失うのだ。 東がかなり酔ってくると、新庄が言う。 「もうそろそろ行きましょうか」 そして二人は店を出た。
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