第4話 カロリーメイト

2/5
61人が本棚に入れています
本棚に追加
/312ページ
窓ガラスにはりついた雨が、タクシーのスピードで流れ、何か遊園地のアトラクションを思い出させた。 ……自分は動いていないのに、勝手に進んでいく。 人生と同じだ。 車のエンジン音を聞きながら、東は心の中で皮肉な笑いを浮かべていた。 ……そういえば、入れっぱなしだった。 右のポケットにタクティカルペン。 そして内ポケットには樹脂で造った拳銃、3Dプリンターを用いた銃が入っていた。 以前に、情報屋の九能常秀(くのうじょうしゅう)からもらったもので、真っ白な外観はまるでオモチャにしか見えない。 東は九能の言葉を思い出す。 「3Dプリンターで造った銃は、強度の問題で使用者にとっても危険なんですが、これはいいものですよ」 ……九能さん。 ロシアから帰ってきて別れたっきり、なにやってんのかな? 東は胸に手を当てて、思う。 ……これのおかげでいつでも好きな場所で、ただ引き金を引くだけで楽に終わらす事ができる。 はは、もしかして自由ってのはこういう事を言うんじゃないか? 東は自殺はしないと決めてはいるが、そう思うだけで、楽な気持ちになるのはたしかだった。 「ここでいいです」 新庄がそう言うと、タクシーは止まり、セキュリティのしっかりしていそうなマンションに着いた。 ……あんな安月給の仕事で、こんなところには住めない。     
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!