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窓ガラスにはりついた雨が、タクシーのスピードで流れ、何か遊園地のアトラクションを思い出させた。
……自分は動いていないのに、勝手に進んでいく。
人生と同じだ。
車のエンジン音を聞きながら、東は心の中で皮肉な笑いを浮かべていた。
……そういえば、入れっぱなしだった。
右のポケットにタクティカルペン。
そして内ポケットには樹脂で造った拳銃、3Dプリンターを用いた銃が入っていた。
以前に、情報屋の九能常秀からもらったもので、真っ白な外観はまるでオモチャにしか見えない。
東は九能の言葉を思い出す。
「3Dプリンターで造った銃は、強度の問題で使用者にとっても危険なんですが、これはいいものですよ」
……九能さん。
ロシアから帰ってきて別れたっきり、なにやってんのかな?
東は胸に手を当てて、思う。
……これのおかげでいつでも好きな場所で、ただ引き金を引くだけで楽に終わらす事ができる。
はは、もしかして自由ってのはこういう事を言うんじゃないか?
東は自殺はしないと決めてはいるが、そう思うだけで、楽な気持ちになるのはたしかだった。
「ここでいいです」
新庄がそう言うと、タクシーは止まり、セキュリティのしっかりしていそうなマンションに着いた。
……あんな安月給の仕事で、こんなところには住めない。
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