第1話 何でもない日

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その男は本を読んでいた。 仕事の昼休みに、周りがコンビニエンスストアで買ってきた弁当やおにぎり、パンなどを食べる中で食事も取らず、ただmp3プレイヤーで音楽を聴きながら――。 もう何十年も使われているであろう、あちこちがボロボロなった簡易ソファーとパイプ椅子、黄ばんでいるシミが残る汚いテーブルがひしめく場所。 多くの中年男性が皆、昨日やっていたバラエティ番組やパチンコ、キャバクラ、ピンクサロン、ソープランドの話で盛り上がっていた。 換気が悪いせいで湿気がこもった空気の中、その男は本を持ったまま、大きく息を吸い込む。 「おい! 隣の持ち場のやつが指やっちまったってよ」 休憩室に顔中にできものある男がニヤケながら入って来る。 「どうせプレス機の安全装置外してやっていたんだろ? ここじゃめずらしくもない」 ベテランそうな小太りの男が、できもののある男にそう返事をした。 周りが騒がしくなると、男は部屋を出て、タバコを吸いに外にある喫煙所へ向かった。 喫煙所といっても、ただバケツに水が入っているだけの代物で、ここ何年かの禁煙ブームの影響か、一応分けています、という感じだ。     
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