第1話 何でもない日

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「お前からもっとなりたいって言え!!! 正社員にしてくれないならやめるくらい言ったらどうだ!!! もっと頑張れ!!! お前は小さい頃から頑張りが足りないんだ!!! だいたいお前今年で何歳になると思っているんだ!? もう30こえているんだぞ!!! 安定して孫作って、早く母さんを安心させてやれ!!! いいか!! 俺も母さんももう長くないんだ!!! それなのにお前ときたら……。お前は本当にどうしようもない奴だ!!!」 東が部屋を出て、外に行くまで、父親は繰り返し言い続けた。 東はうんざりした顔して、玄関前で空返事をした。 ……毎日毎日、同じ事しか言わない。 さすがに病気になりそうだ。 あの人は自分の不安を、俺に当たる事で解消しているんだ。 もちろん俺にも問題はあるけど……。 東は駅に向かい、電車に乗り込む。 そして背中に背負っていたリュックから、桜庭一樹の『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』を出す。 東は場所によって読む本を分けており、仕事の休憩中、家、移動用とそれぞれ違うジャンルの本を読む。 ちなみに今日の休憩中に読んでいた本は、アルベール・カミュの『転落・追放の王国』で、家ではスーザン・フォワードの『毒になる親』を読んでいた。 ……藻屑(もずく)ちゃんは、父親を愛している。 でも、それと同時に絶望もしている……。 茅ヶ崎駅に着いて、東は読みかけの本をリュックに入れ、切符売り場に向かった。
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