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幽霊でも憂鬱な気分にはなる。それを見事に立証しながら、アタシは今朝も自分が死んだホームに立っていた。
ドラマとかで、生きてる人が幽霊の身体をすり抜けて進む場面を見たことがあるけれど、ああいうのはないのね。みんなきちんとアタシのことを避けてくれる。でも見えている訳じゃないようだし、そもそもこんなに人がたくさんいるのに、微かにさえ接触の感覚はない。
周りにとってアタシは存在しないもの。その筈なのに、今日になってやたらと妙な反応を示す人が現れた。
二十代後半から三十代前半くらいかな。
年齢はそのくらいだと思うけど、顔は見たこともない男の人。
その人がアタシのいる方を見てあからさまにぎょっとした。
たまにいるのよね。幽霊が見える人。
みんな洩れなく見たものにぎょっとして目を逸らす。でもその人の反応は違っていた。
目を逸らさないままこっちを見てる。怯えてる様子はない。ひたすらに驚きと、戸惑いが混ざったような顔をしている。
その、普段はあまり見ない反応に相手を見返していたら、男の人が声を上げた。
「何で生きてるんだよ?」
その瞬間、アタシは一度に色んなことを理解した。
真相を知りたいと思っていたけれど、自分でもたまたまの不運な事故の犠牲者になっただけだと思っていた。でもどうやら、アタシはただの事故で死んだ訳じゃなかったらしい。そして、アタシの命を奪ったのが誰なのかも判った。
どこからどう見ても知らない。姿形に面識がなければ名前も当然知らない人。
でもこの男のせいでアタシは死んだ。ううん、この男にホームに突き落とされて殺された。
確信したら見過ごせないでしょ。
アタシ、アンタに何かした? 殺されなきゃいけないくらいの何かした?
思い当たることなんて何一つないし、万が一思い当たることがあるとしても、だったら線路に突き飛ばすとかじゃなくて、他に断罪方法はあるよね。
でもアンタはそれを選ばなかった。だからアタシも選ばない。
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