颯に揺られた水仙

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 僕は逃げた。  痛い思いしかしないあの窮屈な場所から。  僕の一番好きな僕だけの秘密基地。  僕の一番好きな花が咲くあの秘密基地。  誰も知らない筈、だ。  女、の人…………?  白い髪に金色の目の美しい女性がいた。  よく見てみるとある事に気付いて声をかけてみる。 「そんな所でどうしたの?怪我してるじゃないか」 「…………人間の少年か。私が視えるのか?」 「うん、見えるよ。手当した方がいいね」  すると彼女は僕が伸ばした手を振り払う。 「余計な事をするな。どうせ私は直ぐに居なくなる身だ。人間の世話になる必要はない」 「それなら、手当して元気出そ?」  彼女は驚いた顔をして、直ぐに口元を緩ませた。 「ふっ……。変わった少年だな」 「あはは、そうかなぁ。僕は(はやて)。君は?」 「私に名などない。あっても人間の少年になど言わん」 「じゃあ、僕が名前をあげる!えっと……」 「いらん。少年、話を進め……」 「水仙(すいせん)!」 「は?」 「君の名前だよ!水仙なんてどうかな?」 「何故その名なんだ?」 「うーん……。僕の一番好きな花に雰囲気が似てるから!」  彼女は一瞬目を見開いた。 「…………。お前の好きな花が、水仙…なのか?」 「うん!」  僕がそう答えると彼女は微笑んだ。 「ふっ…。いいだろう、気に入った。新しい私の名だ」  その笑顔がとても綺麗で、僕は見惚れてしまった。  これが水仙と僕の出逢いだった。 * 「すいせーん!!」 「五月蝿い、少年。声が大きい」 「もう、颯って呼んでってば、水仙」  あれから数日が経った。僕は毎日水仙に会いにここに来ている。 「ねぇ、水仙。お腹空かない?」 「空いたが、なんだ。水を持って来たのか?」 「君はどうしてそう切実に水を欲するのかなぁ。違うよ、はい」 「ん?何だこれは」 「大福だよ」 「大福?大層な名前だな。美味しいのか?」 「美味しいよ。本当に食べた事無いんだ」  水仙に逢った日、彼女はお腹を空かせていた。大きな音でお腹が鳴ったので、僕は笑った。 『…ふっ、お腹空いたの?』 『ここ数日何も食べていない』 『何か持ってきてあげる。何がいい?』  そう訊くと、思わぬ答えが返ってきた。 『水』  …………ん?水?  いやいやいや。水って。食べ物ですらないじゃん。  そう言うと水仙はキョトンとした顔をした。
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