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『水以外に食べられるものがあるのか?』
『あるよ。野菜とか果物とか肉とか色々。ていうか水は「食べる」じゃなくて「飲む」だから』
人間というのはよく分からないな、と彼女は笑った。
まあ、僕からしたら水仙の方がよっぽど不思議な存在なんだけどね。
そう思いつつ、横で上機嫌の彼女に目をやる。あまり表情が顔に出ないが、多少、喜んでるなと分かる。
「大福、と言ったか。実に美味だな。少年、水が飲みたい」
「すぐ、水だよ…………。どんだけ水が好きなの」
溜め息をつきながら、僕は竹筒に入れてきた水を水仙に手渡す。
僕から受け取ってお礼を言って水仙は水を飲む。すると彼女は思い出したかのように口を開いた。
「そうだ、少年。言い忘れていたが、ここに来るのは水仙が咲く時期だけにしてもらえないか?その時期にしか私はここに来ることが出来ない」
「え?そうなの?分かった、いいよ」
「ありがとう、少年」
「だから、颯って呼んでってば」
そんなたわいの無い話を水仙が咲く時期に二人で過ごした。
*
水仙と出逢ってこんな生活を続けて十年が経ち、僕は十八歳になった。
彼女は出逢った時と変わらない姿で、水仙が咲く時期に僕のお気に入りのこの場所に現れた。不思議に思ったが、特に気に留めなかった。
「少年、大福あるか?」
「水の次は大福なの?持ってきたけどさ。あと、いい加減名前で呼んでよ、水仙。僕もう十八歳だよ。少年じゃないから」
「じゃあ、青年」
「話聞いてた?」
そんなたわいの無い会話をしているだけで嬉しくて、幸せで。
気が付くと僕は彼女を好きになっていた。
水仙が居たから、今まで逃げていた場所での生活を頑張れたんだ。
「少年、最近上機嫌だな。何かいい事でもあったのか?」
「水仙に会えるだけで嬉しいんだよ、僕は」
「……よくもまあそんな恥ずかしい事をさらりと言えるな」
水仙はふいっと僕から顔をそらした。少し頬を染めた彼女が一瞬目に入る。
照れた彼女が愛おしくて笑う。
「水仙可愛い」
「黙れ」
怒った。顔怖いよ……。でも、そんなところも好きなんだ。
その後、しばらく水仙と過ごして帰宅すると、義父に声をかけられた。
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