182人が本棚に入れています
本棚に追加
/347ページ
「わかった。リセル。これでいいか?」
「ああ、結構だ」
少女――リセルは安堵の表情を浮かべ、ようやく落ち着いたかのように肩の力を抜いた。
それを半ば残念そうに見つめながら、青年は口を開いた。
「じゃ、私も名乗っておこうか。私は神殿騎士のルヴォーグだ」
「る、るぼーぐ?」
リセルは発音しにくそうに顔を歪めた。
するとルヴォーグはやれやれと肩をすくめながらつぶやいた。
「そう、どうも王都の人間に、南部出身の私の名前は発音が難しいみたいなんだよな。ああ、無理にちゃんと言う必要はない。私の事は皆『ルーグ』と呼ぶから」
「あ、でも」
リセルはルヴォーグの顔を見上げ首を振った。
「いや、そういうわけにはいかない。誰だって自分の名前を間違われたら、嫌な気持ちになる。第一失礼だ」
ルヴォーグは一瞬戸惑ったように瞬きした。が、その顔には微笑が浮かんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!