【3】旅の目的

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「……よく、無事だったな。とても、信じられないけど」  ルーグは意味ありげに眉根を寄せ、じっと燃えるたき火の炎を見つめた。 「二日前に王都の『大神殿』で事件が起きたのは知っている。あの神殿が柱を残して天井も壁もすべて崩れ落ちたそうだな。けれど私はちょうど南部の神殿の方へ使いに出ていて、あの事件には巻き込まれなかった。ハイ・プリースト(神官長)=リセル」  リセルは弾かれたように顔を上げ、激しく頭を振った。 「わたしを知っていたのか。でも、その呼称でわたしを呼ぶな。わたしは神官なんてなりたくないんだ。わたしはただのリセルだ!」 「……じゃ、何故君は王都を抜け出し、たった一人で『神の山』に向かっているんだ? ぶっそうな幽鬼どもに命を狙われながら」 「そ、それは」  ルーグが白い手袋をはめた右手を伸ばし、リセルの青白い頬にそっと触れた。 「何する。急に」  ルーグは黙ったまま顔を近付け、ひたとリセルの顔を覗き込んだ。  リセルの血のように紅い瞳は、一つの三つ編みにくくられた白銀の髪と同じ睫毛で縁取られ、まるで吸い込まれそうに妖しい光を放っている。  魔性のものといっていいだろう。それは。
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