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「あたし、こっち」
咲は公園に着くなり、赤いブランコに飛び乗った。残るは、青いブランコ。
色なんて関係ない。ブランコの性能には。私は、青でいい。咲とケンカしてまで赤いブランコには乗りたくなかった。
それからずっと、咲は赤いブランコで、私は青いブランコで。それで、よかった。
バスに乗るのはいつぶりだろう。バスは嫌いじゃないが、わざわざ乗る機会は少ない。大抵の移動手段は自転車だが今日は特別だ。
春休みに咲と決めた。新学期に使うノートは中学二年らしく、おしゃれにしたい。中学一年の時の規定にはまった真面目なノートではなくて、少し型破りな、可愛いノートに。
その為には自転車では少し遠い、百貨店に入っている文房具店に行かなくてはならない。
「葵、お小遣い、いくら持ってきた?」
窓際の咲が、なんだか得意そうに聞いてきた。
「今月はまだ使ってないし、ノート買うって言ったら少しもらえたから、二千円かな」
財布の中を思い出して答える。
「私、三千円」
咲のやや吊り上った大きな目が自慢げに光る。
「昨日おばあちゃんの肩をもみ続けて、ゲットしたんだ」
「出た、年金泥棒」
「失礼ね。正当な労働の対価よ」
「正当ねぇ……時給いくらなんだか」
咲は涼しい顔で、「あ、着いたよ」と降車ボタンを押した。
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