二番目に好きな色

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校門で待っていると、すぐに野球部の野太い解散の挨拶が聞こえ、五分もしないうちに私たちの前を次々と男子が通り過ぎて行った。 私たちが校門の陰になるところにいるせいか、辺りが暗いせいか、私たちに気づく男子はいなかった。 四月だというのに男子が通り過ぎるたびに熱気と汗のにおいが鼻孔を刺激する。 そういえば私も汗はかいたのだ。今更ながら気になってきた。私は汗臭くないだろうか。自分の脇の下辺りに鼻を寄せたとき、咲に肩を叩かれた。 「戸田、いたけど」 珍しく歯切れの悪い言い方に戸田君を探すと、数人の男子と固まってこちらに向かってくるところだった。私たちの考えが甘かったのだ。 戸田君だって一緒に帰る部活仲間はいる。ここで私たちが迂闊に声を掛けようものなら、翌日には皆がからかうネタを提供することになる。中学生の男子と女子の壁はいつの間にか厚くなっている。 どうすることもできず、戸田君とその他男子たちの後を付けるように、私たちも帰り道を歩き始めた。 戸田君集団が次々と抜けていき、戸田君一人になった時には、私たちと戸田君の分かれ道の公園まであと角一つというところだった。 「わっ」 突然咲が戸田君の背中にタッチする。戸田君の肩が大きく上下し、振り返った顔は心底驚いていた、と思う。周りが暗いため、表情はよくわからない。辺りは暗いうえに、戸田君集団は騒がしかったから、私たちがこっそり後を付いていたことに全く気付いていないようだった。 「久しぶりに集団下校したくなって」 「懐かしいこと言うんだな」 戸田君の声はまんざらでもなさそうだった。 戸田君との分かれ道の公園まで数十メートル。ほとんど、咲と戸田君の会話しかなかった。私には入るタイミングがなかった。 「じゃあな」 公園に着くと、戸田君は軽やかに私たちとは別の道を歩いていった。 私たちは公園でしばらく立ち止まってしまった。二人で戸田君の後姿を見ていた。 突然背後でギィと金属が軋む音がした。 ひやりとして、恐る恐る背後を確認すると、ブランコが風に揺れていた。私たちが小さな頃に乗ったブランコだ。咲の赤いブランコと、私の青いブランコだ。 「なんだ、ブランコか」 二人同時につぶやいたことがおかしい。それを合図に、私と咲は帰り道を再び歩き出す。
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