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「つまんない授業でも絶対起きてたから、すごいなって」 「...普通でしょ」 複雑な表情になったのは、ストレートな褒め言葉に慣れていないから。 「高橋(たかはし)は」 その声の上がり方は、動揺しているとき。 「俺は県外。で、明日入寮日で」 右脚を見下ろす。刈り直した頭の形はすっきりしていて、気持ちいい。 「じゃあ、持ってて」 いつの間にか解放していた妹を呼ぶのは、お開きの合図。 「邪魔になったら、捨ててもらってかまわないから」 好きにして。処分して。 ぐるぐる巡る言葉から、あの子の本音を探し出せ。 あんなに大切にしてくれたのに、捨てるだなんて言わないで。 「いや」 振り返ってはくれなかった。 「返すよ」 ひと遊びした妹に、荷物を渡す。今夜はカレーだった。 「いつ」 その時の彼女の表情を、私は知らない。 「次会えたとき」 白いレースのハンカチは、花柄もわからないくらいに赤く染まっていた。 「...なにそれ」 そのまま小さくなっていく背中を、じっと見つめていた。 次の日も朝は早い。そのくせ、にぎやかさは増していく。 ほらまた、ドアが開いた。 「わっ、お前寝てたんじゃないのか」 「いやいや4番さん。ウチは異性交際禁止なんでね」 「同性ならいいのか」 「バカ、なんでそうなる」 野太い声でのやり取りも、すっかり慣れてしまった。まっ暗いところだと、表情や雰囲気も読み取れる気がする。 「だから、あれはそんなんじゃなくて」 「いや、どこからどう見ても女モンだろ」 「もう捨てに行くんだよ」 捨てる? 「綺麗にシミが取れたから」 「わけわかんねえ」 言葉のチョイスと、温かみのある口ぶりとの矛盾。 悟った気でいるのは、私だけでいい。
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