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引っ張られるように扱われたのは、おそらくこれが初めてだった。
「うわ、これ彼女の?」
たしかに、男臭い寮生活の中で私は異様な存在なのだろう。
「ちがうって」
皺を伸ばしながら折りたたんで、畳まれた服の上に。すぐに真っ暗になって、外からバリバリと音がする。
これは、次も私を連れて行ってくれるということ。
「じゃあ、どういうことだよ」
笑い声、冷やかす声。
そう、彼らは悪い人ではない。はっきりと顔をあわせたことはないけれど、いつも楽しそうにしている。
「これは、ほら」
ほんとうは、思い出や将来を語り合うべき夜なのかもしれない。でも、彼らには似合わないだろう。
...決めつけてしまうと、失礼だろうか。
「お守りみたいなもんだよ」
彼は私を丁寧に扱った。
常にリュックの前ポケットに入れ、大事な試合前には人目を忍んで洗う。この際、手洗い場のレモン石けんでゴシゴシされてもめげなかった私のタフネスを褒めて欲しいところだ。
「もういいだろ、その話」
だから、すごく気になる。
あの子はどういう思いで、私を手放したんだろう。
にぎやかな家族だった。
棚の一番手前に置いていたのを適当に取って、走る。
「じゃあお姉ちゃん、これは?」
「ちょっと、お姉ちゃんの入学祝いなんだから、もうちょっといいの選んであげなさいよ」
この2人は、親子だろうか。
「お姉ちゃん」は、母親の隣に立つ背の高い女の子か。
「いいよ、それで」
「え?ほんとに?」
失礼だろと思ったが、この女の子にこの柄はおばさんくさいかもしれない。
「じゃあ、次は私の靴下ね!」
小さい女の子が母親の手を引くので、私はカゴの中で滑った。
割引シールが半額になる前に買ってもらえた喜びと安心を感じながら。
第一印象は裏切らない。あの子は、すごく良い子だった。
アイロンを使って折りたたんで、スカートのポケットに入れる。毎日の洗濯は欠かさなかったし、スカートで手を拭くような姿を見たことはなかった。
そんな性格は、学校生活でも反映される。
聞き慣れない声がしたと思えば、ノートを見せて、勉強を教えて。休み時間のざわざわから距離のある彼女は、少しだけゆっくり息を吸う。
「いいよ」
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