第1章 契機

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そんな素行不良にも見える彼だが、ちゃんと尊敬できる部分もある。 例えば、怪我に対する的確な治療をこなしていく姿。例えば、学校生活でうまくいかなくて落ち込む生徒を、素っ気なさそうにしつつも的確なアドバイスで立ち直させる手管。 かくいう俺も、そんな先生に助けられて、的確に治療していく先生の姿に、憧れを覚えてしまったせいで。それまで興味のなかった、医療に興味を持ち、高等部に入ってからは保健委員会に所属し、色々あって直談判した結果、先生の傍でお手伝いするようになったのだ。 まあ、中等部の頃から先生とは知り合っていたから、もともと暇を見つけては簡単な薬の整理ぐらいはさせて貰ってたけれど。 ……今思えば越権行為だとか言われて、よく怒られなかったな、としみじみ思ってしまう。 まあ、とにもかくにも。そんな感じの経緯があるため、彼は俺にとっては一応、尊敬すべき先生なのだが。 手伝いに来て早々絡まれてしまったのが、本日の数分前のことだ。 『…おい、月島』 『はい?なんでしょうか』 『片付けはいいから、ちょっとこっち来い』 『何言ってるんですか。この前ちゃんと整理したのにまた出しっぱなしにしてる先生がいけないんですよ、どうして俺が見てない間にこうも、』 棚の中ぐしゃぐしゃに出来るんですか、と続けるつもりで後ろを振り向けば。 いつもなら書き仕事をしているはずの先生が立ち上がり、俺の方へ歩を進めていく姿に思わず言葉を止めてしまった。 (…え、なんで?いつもなら片付けとか興味ない先生が珍しくこっちに来るとか…) 無精ヒゲだけどやっぱイケメンだなぁと呑気に思っているうちに、俺の目の前まで近づき。 そのまま挟み込むように、薬棚に手をついて強い視線で俺のことを見つめてきた。 『……?? ちょ、あの、先生…??』 顔近い顔近い!というか、何で今日こんなにグイグイ来るの、いつもなら俺にここまで興味持たないだろうアンタって人は…! なんて、脳内でかなり混乱して心臓の鼓動が勝手に速くなっていた、そんな時に。
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