4・助手席の女

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4・助手席の女

     ◇ 「(ノブ)リン、おはよー」    黒いレースの日傘を、肩に掛けてクルクル回しながら私達に近付いてくる女性。着てきたハワイのムームーっぽいワンピースが良く似合うぽっちゃりめの体型に、栗色の縦巻きカールロングヘアー。ふんわり癒しのオーラを纏った彼女は、“表向きでは”たった一人のママ友と私の中に設定してある人物、紗栄子(サエコ)。  子育て中の悩みを共感し合ってストレスを無くす、だとかどうとか……友達付き合いが苦手な自分としてはよく分からないが、保育園、小学校、中学校と、子どもの教育過程の一端に嫌でも付いてきてしまうママ友付き合い。未就園児のために市が執り行ってる子育て支援サークルの勧誘が、羅王の産後の検診の時にあった。しかし、うちは参加しなかった。  それは学生時代とは全く違った友人関係。子どもの能力自慢とか、家庭の生活レベルが高いわ低いわでマウンティングしたりする、そういう探り合いの様な付き合いが面倒臭かったから。  前に羅王に『保育園に連れてく時、靴箱のとこまで連れてきて』って言われたから、しょうがなく時間に余裕を持って早めに家を出てきた結果コレだ。  間が悪い事に紗栄子に捕まった。  今日だからこそ車から出てくるんじゃなかった。 「羅王くん、おはよう。またうちに遊びにきてね」  紗栄子は“また”とか言ってたけど、そう図々しく頻繁に承太郎(じょうたろう)くん家にお邪魔してない。  羅王の手を引いて靴箱の方に走っていった紗栄子の一人息子の承太郎くん。おとなしい羅王に比べて、活発にちょっぴりヤンチャな部分を持ち合わせた子ではあるが、紗栄子に似た人当たりの良さと、彼女のご主人さんから受け継いだルックスの良さを兼ね備えていて、園児の中ではとても目立つ存在の子だ。  羅王から以前、承太郎くんが絵画コンクールで金賞を取ったと報告された。 『ありがとー。そんなの普通だしー』    紗栄子の口癖だ。普通じゃないから誉めてるのに。  親バカかも知れないが、賞を取った承太郎くんなんかよりも、お友達の栄誉を自分の事の様に喜んでた羅王の方が人として優れていると思う。周りのママ達に囲まれて、『普通、普通』と謙遜しながら明らかに調子に乗ってる紗栄子に鼻で笑う。  ただの社交辞令なのに本気で喜んでるなんて。紗栄子ってば、ほんと単純で……  私の様にひねくれてなんかいない。
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