6・射精

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     ◇ 「おかあさん。ぼく、きのうもまたラーメンっていわれた……」  いつも保育園に行きたがってたはずの羅王が今日はやけにぐずって、玄関でなかなか靴を履いてくれない。  保育園は別に遅刻しても構わないけど、仕事は遅刻出来ない。ギリギリの人数でシフトを組んで、出来るだけ多く従業員に給料を支給するという方針で店を賄っている店長……謙介さんと、私と同じ時間帯のシフトに入ってる山本ちゃんに迷惑を掛けてしまう。    朝食のコーンフレークに牛乳をかけたところで「いらない!」と食卓のテーブルに顔を突っ伏して泣いた羅王。 「おい伸子。羅王のメシそれだけか。ちゃんとしたの食わせてあげろよ」  羅王の傍らで、冷蔵庫から出したラップにくるんだ冷やご飯に納豆をかけて混ぜている誠に文句言われた。 「……っつーか。朝、味噌汁くらい作れって」    朝っぱらから。羅王が泣いたせいで私も浮かない気持ちだった。      ◇ 「ホラ行くよ! 承太郎くん待ってるよ!  もう! 早くしなさい!! お父さんに言うからね!」  スマホを仕事の鞄から取り出して、誠に掛けるフリをしたけど、一向に靴を履かない羅王。 「いいよ、かければ? どうせおかあさんがしかられるよ?」  昔は私の言う事をハイ、ハイって、ちゃんと聞く素直な子だったのに。年長組に上がってから度々、口答えしてくるようになってきた。  羅王がこうなったのは全て誠のせいだ。  誠が羅王の見てる前でいつも私を罵っているから、羅王も一緒になってバカにする様になってきたんだ。 「羅王。いじめられる方にも原因あるのよ。  相手が嫌がる事言ったんじゃない? 羅王が気付いてないだけで、ちょっとした言葉が相手を傷つけてしまう事だってあるのよ?  今日その子に保育園で聞いてごらん。何もしないとまたラーメンって言われるよ? 嫌でしょ?」  あの時。涙を溢しながらも、羅王は私の説得をちゃんと受け止めていてくれていたのに、私の方は、家の事が何もかも思い通りにならない事に腹を立て、それを丸ごと羅王に当たってた。頭の中は自分の仕事の事……謙介さんの事ばっかりで羅王の話をちゃんと聞いてあげようとしなかった。
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