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7・着床
◇
羅王を説得しながら、たまたま目にしたテレビ番組の予告CM。今夜、金曜ロードショーで、あの有名アニメ映画の“トトロ”が放送するらしい。子供心をくすぐる愉しそうな歌詞が流れ出すと羅王が完全に泣き止み、テレビに興味を示しだした。
今だ――――!!
「一緒に観ようね」
オープニング曲を下手糞な裏声で口ずさんで羅王を誤魔化しながら、車の助手席へと誘導して保育園へと走らせた。
「トトロおわるのおそいよ? おわるまで起きてたら、おとうさん怒るんじゃない?」
「大丈夫。お父さん、今日の夜はお出掛けで帰ってくるの明日だから」
羅王を保育園の駐車場で降ろして、仕事場へと向かう。次々と他所の車が入ってくるから危ないのに、降ろされた駐車場でバックミラーから見えなくなるまで羅王は門の方へは向かわずに、そこにずっとつっ立っていた。仕事行く前に紗栄子の顔を見るのが嫌で、今日も靴箱の所まで連れて行かずに謙介さんの元……じゃない、仕事場へと逃げ込んだ。
「伸ちゃん、おはよう」
挨拶してくれる謙介さんと山本ちゃん。
山本ちゃんはどうでもいいけど、謙介さんのこの笑顔にいつも救われている。
◇
誠は今夜、仕事帰りに作業服のまま直行で友達の店に飲みに行くと言っていた。あの人もそこに車ごと泊めさせてもらって、アルコール抜けた翌日の昼過ぎぐらいに帰ってくるのだと。
『ゆっくり楽しんできてね』
そんな私の言葉に、あの人は申し訳なさそうな表情して家を出てったけど、コッチだって来月に謙介さんとのデートの約束を控えてる事だし、家事も少々怠けてもしばらくの間は文句言ってこないだろうと、“貸しを作った”感じで何か得した気分だった。
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