7・着床

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 山本ちゃんは厳しい。  ルックスは昔、一世を風靡した“なんとか崩し”とかいったタイトルの家族ドラマに登場する不良少女役を演じてた女優にソックリ。  出勤のスタイルは冬でも下駄を履いてくるといった奇抜なセンスがヘアスタイルと共に爆発。  仕事に厳しい割には肝心な所が鈍感だから、未だに結婚出来ないのであろう。自分を良く見せようとか全くしない。  私と同じ様に、謙介さんに「趣味は?」って聞かれてたけど、この子ったら「ネトゲや」と応えてた。『寝る』の方がまだマシよ、ってこっそり伝えたら、「嘘は嫌いや」と返された。強情、っていうのか何なのか解らないけど、自分が女性であるという自覚が全く無いみたいでウンザリする。 「いい相手、見つかるといいね」  上辺だけではこんな風に彼女を励ましてはいるが、内心では『こんなのと結婚したい奴いるのか』と思っている。  出来るものなら、山本ちゃんに誠をタダで差し上げて、独身になった時点で即、謙介さんと略奪婚してしまいたい。  私に注意しながらも、仕事“だけ”は早く正確にこなす彼女は「ねぇ次、何やりゃあいいの?」と嫌味無く手伝ってくれる。  そんな彼女に甘えてしまって、ついついスパゲッティサラダの盛付けとか面倒臭い仕事を押し付けてしまう事もしばしば。  どちらかと言えば、私にとってはキッチンの仕事よりレジで接客の方が楽なので、客が来たら即、表へ逃げる。  おそらく毎日顔を合わせてる店長には、結婚してる私よりも結婚してない山本ちゃんの方が、愛想は無くても料理が得意だという事が既にバレているだろう。  趣味が料理じゃなくてネトゲ、と私の居る前で応えてたのは、実は彼女の優しさなのかもしれない。
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