8・お兄ちゃん

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8・お兄ちゃん

 思い返してみれば、生理が遅れてからほぼ毎日。決まった時間帯に定期的に訪れてくる身体の不調。日が経つにつれて、これが私の中で疑惑から確信へと移り変わっている。  特に辛いのは早朝。起き上がれない位の吐き気に苦しめられている。 『いつも口(ひら)けば“えらいえらい”。そんなの仕事行く前に聞きたくない。いつも怠けてばっかのくせに偉そうに。感心するわ全く』  誠の愚痴台詞。  初めは誠や金欠が原因のストレスからくるものだと思ってた。認めたくないけど、羅王をお腹に宿した時の悪阻(つわり)を思わせる症状だった。スーパーのトイレを借りた後、買い物を続けるのを止めた。    落ち着いて。想像妊娠かもしれないわ……。  過去に羅王を出産した個人経営の産婦人科“高樹レディースクリニック”は職場の隣にあるけれど、今は羅王を連れている。万が一こんな展開になってしまったら――――      ◇ 『おめでとうございます。妊娠2ヶ月4週目といったところでしょうか。赤ちゃんは順調に育っています。羅王くん良かったね。お兄ちゃんになったよ』  8年前にお世話になった高樹院長と助産師。 『これ以上体重増加すると中毒症になりますよ!』 『赤ちゃんの事しっかり考えて!』  妊娠後期に、私の主治医だった院長に母子手帳を叩き投げつけられた。  酷かったのはどっちだったのだろうか。  今になって解る。  通常分娩で無事産む事はできたけど、結婚を期に退職してから家でぐうたらし過ぎて体重を大幅に増加させてしまった上に運動不足も伴って、陣痛が始まってから3日後の出産と長引かせてしまった。
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