8・お兄ちゃん

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 見たところ歳はおそらく30代、滝沢くんに雰囲気が似てるジャニーズ系イケメン院長。初の内診検査の時、内診台に仰向けで足を拡げて寝そべりながら、お腹で遮られた薄い水色のカーテンの向こう側に、ぼんやり見えてた先生の影。 『ちょっと冷たいですが、力抜いててくださいね』  器具を入れて動かす度に聞こえるクチュクチュ音。どんな表情で診てるのか想像しちゃってドキドキしたけど、これまでに更年期の女性から女学生のを何性器も診てる医師だから当然。母体と胎児。2人分の命を預かる責任を背負った真面目な先生。  そんな状況の中、羅王の居る前で『産めないから堕ろす』だなんて言えない。  産婦人科でちゃんと調べてもらうのが確実な結果を得るだろうけど、敢えてそこで調べて貰う策を取らずにドラッグストアーへと向かった。     ◇  ドラッグストアーで買ったものは、今晩トトロを観ながら羅王と二人で一緒の夕食にするつもりの菓子パンとデザートのプリン。それを買い物カゴに入れてから妊娠検査薬を然り気無く放り込んだ。 「おかあさんのおかし?」 「そう! うん、そう……」  妊娠検査薬に物珍しく食いつく羅王に挙動不審な嘘をついて、「コレみたいなお菓子よー」と“ねるねるねるね”をカゴに入れた。  ただの想像妊娠であって欲しい。  “あなたは妊娠していません”と、これで陰性の結果を確認できたら、この胃のムカムカは、すっかり消えて無くなるだろう。  晴れて“いい結果”……陰性が出たら飲んで祝おう。誠も居ない事だし、謙介さんとまったり通話しながら。  妊娠してなくて祝うって言い方、子供に恵まれない人からしてみれば反感買うかもだけど、妊娠を気になり出してからずっと控えてたストロング系アルコール度9%のレモン缶チューハイも2本追加した。  今夜は宴となるのか。  それとも――――
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