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笑顔を作った女の前、男は溜息をつくと、面を両手で覆って顔を伏せた。女は笑みを消し、軽蔑の眼差しで男を見下ろした。
「いい加減、腹括りなさい」
「……だから、括る準備をしてるんだろ」
男は言って、顔から手を離すと立ち上がり、濡れたシャツとボトムズを撫で上げた。乾いた白いカッターシャツにベージュのチノパン、ブラウンの革靴に襟元には青色グラデーションのネッカチーフ、濡れ鼠の全身がパリッと乾いた衣装に変化する。
「あら、爽やかセレブといった装いね。やればできるじゃない。ロン毛よりそっちの方がマシ」
短くカットされた金髪の巻き毛、スカイブルーの瞳を見つめ、女は目を細める。男は見返す。
「お前の趣味に合わせたつもりはない。嫁に会っても恥ずかしくない格好を選んだまでだ。そんなことより……」
男は顎をしゃくった。顎を向けた方向、白一色で果てのない空間の一角に、出入口となる扉が出現する。
「はいはい。いつまでも待たせる訳にはいかないものね」
女は苦笑し、歩き出す。
「……男の方は任せた」
「わかってる。さすがに私でも、彼を貴方に引き合わせるのは悪いと思うわ。でも、彼が貴方との面談を望んだら?」
「有り得ないと思うがな。しかし、そうなったら、織田くんにドアラの着ぐるみでも借りて土下座するよ」
「ふふふ。見てみたいものだわ。日本屈指の呪術師の土下座姿」
そう言って笑うと、女は扉を開けて室内を後にした。
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