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「せり、ざ……」
「……無理をしたな」
やはり優輝だと気づいていたのだ。目出し帽をしようと着たことのない女物の着物を身に纏おうと、芹沢は分かっていた。
それならば、と芹沢だけに聞こえるように小さく言う。
「に、逃げてください……」
聞こえているはずなのに、反応はない。身体中刀傷だらけで、荒い息を繰り返しているその姿は四人もの手練れを相手にできないと、本人が一番知っているはずなのに。
「お願いです……」
芹沢の足元に血が広がっていく。命がこぼれ落ちていく。もう一刻の猶予もない。
「死なないで……!」
自分の事を見なくてもいい。傍若無人であってもいい。生きてさえいればなんでもいい。
これは優輝のただの我儘だ。
きっと芹沢は覚悟を決めている。
圧倒的に不利な状況でもどこかに余裕を秘めているし、かといって返り討ちにする素振りもない。
ただ自分に向けられた刃を弾き、時には楽しんでいるかのような声を上げる。
芹沢だけではない。
あの四人だって仲間を命を背負う覚悟を持ってこの場にいる。
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