100人が本棚に入れています
本棚に追加
/180ページ
「何言ってんだ!」
「私達の目的はこの女性ではないでしょう」
「見られちまってんだろ!」
山南と原田が顔を見合わせたその瞬間を好機と言わずして何と言うだろう。
迷いはなかった。ただ、一瞬だけ斎藤の顔が頭をよぎった。
揉める二人の間を駆け抜け、短刀を鞘から滑らせる。
背後で風を割く音と、「辞めなさい!」と言う山南の声が響いていた。
「ほう、やるな」
背後から斬りかかったとしても歯が立たないことなど分かっている。
沖田と一緒に芹沢に斬りかかろうとしていた男の声は土方のものに間違いがなく、その双眸は例え女であっても容赦はしないと鋭く訴えていた。
優輝の一閃を難なく躱した土方は、優輝が投げて床に転がっていた硯を拾う。
次の一手が見えた優輝は咄嗟に頭を守ろうとしたが。
「ぐっ!」
こめかみに当たった硯と共に、床に崩れ落ちた。
一瞬目の前が白くなったと思えば、戻ってきた視界は左目の方霞んでいた。血が出て、目の中に入り込んだのだ。拭った着物の袖は変色していた。
「おい」
助けたくて、死なせたくないと願っていた人物の声がすぐ耳元でする。
「お主、何故来た」
気づけば大きな背中がすぐ目の前にあって、守りたいと決意したはずなのに逆に守られている現状に悔しさが滲んだ。
最初のコメントを投稿しよう!