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 ごくありていに言うと、僕は恋に落ちてしまったようだった。  5月のあの曇りの日の、玄関でのたった数分の対峙。たったそれだけで、いつしか彼女の存在は僕を捉えて離さなくなった。  整った顔、白い肌、血色の悪い唇、無風時の滝のように素直に流れる髪、そして狂気めいた物言い。そのすべてが至極蠱惑的だった。  季節はやがて梅雨へと移行した。必然的に曇りや雨の日が多くなり、青さんを学校で見かける日が増えた。  晴れた青空の日には登校しないという噂は本当で、晴れた日に音楽科のクラスを訪ねてもそこに青さんがいたことは一度も無かった。  いつ見ても青さんの肌は幽霊のように白く、それに反して明るい栗色の髪はひどくちぐはぐな印象を与える。(とりあえず生気の無い紫色の唇だけでもどうにかならないものだろうか)  彼女は音楽科の女子と群れるようなことはせず、大体いつも一人で居た。  その茶色の瞳には常に緊張感と切迫感、そして翳りと憤りと切なさのようなものがないまぜになって漲っていた。  ──何かを背負っている表情。バイオリニストの世界はやっぱりシビアなのかな。  無難な推理を展開しながら彼女のことを思うにつけ、僕はそっと物陰から見守りたいような、積極的に守りたいような相反する感情にかられた。(これが恋煩いというものなんだろうか??? ならばこれが初恋なので……僕にはよく、分からない)  青さんをもっと知りたいという思いは僕の行動を徐々にエスカレートさせた。
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