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学校から駅までの短い道程はあっという間に終わってしまう。やがて僕たちは少し寄り道をしながら帰るようになった。
普通科の僕と音楽科の青さんとでは授業がほとんど被っておらず、青さんは夜間はバイオリンレッスンがあるので、僕たちが会えるのは帰路を共にしているこのわずかな時間しかない。
練習熱心だね、と誉めると、青さんは決まって複雑そうな表情を見せた。
青さんはとりとめの無い話を延々としたがる時もあれば、僕の問いに頷くのみで一言も発しない日もあった。
そのどちらの状態であっても、僕は彼女の言動を受け入れた。
つかみどころがない、だがいっとう美しい。
様々な色彩に色づく道端の紫陽花を見つめながら、まるで青さんのようだと僕はぼんやり考えた。
──青さんが晴れた日でも外出できるようになれば、もう少し会える時間も増えるのにな。僕はなんだかもうすっかり彼女の虜になってしまっていた。
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