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「……私に用事なら、そのカバン、見えないところにしまってくれない」
高いとも低いともつかないくぐもった声で彼女は囁いた。
僕は手にしていたスポーツバッグを見やった。体育の授業で使用するジャージなどが入っている、運動部員が持っているようなデザインのもので色は突き抜けたブルー。真っ青だ。
「青色は、嫌いなのよ」
彼女は僕の返事を待つことなく吐き捨てるように呟いた。
その表情は険しくも美しい。僕は次第に目をそらせなくなっていた。
「やっぱり青色が嫌いなんだ」
感心したように(本当に感心していた。噂は真実だったのだ、と)僕が言うと、彼女はいよいよ不快感を露わにして僕を睨んだ。
そう、僕はわざと青色のグッズを身につけてきたのだ。彼女の神経を逆撫でする行為だが、まずは噂の真偽を確かめねばならない。
「……青空も、青い海も。青い色をしたものを見るだけで、気が狂いそうになるの」
彼女は暗くもはっきりとした声でそう言うと、僕に一瞥をくれてからすっと傍を通り過ぎていった。
僕は戦慄した。──面白い、まさにミステリーだ、という身体が震えるような歓喜の意味合いで。
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