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「山下さん!」 静かな図書室に響いた声に顔を上げると、ドアの近くには戸田くんが立っていた。ひらひらと手を振りながら、私のいるカウンターまで近付いてくる。私の眉間のシワがさらに深くなった。 「……どうしたの?」 「もうすぐ当番終わるでしょ?」 「え? あ、うん」 「だから一緒に帰れないかなって。最近はすぐ暗くなるし、送ってくよ」 「……部活は?」 「今日はミーティングだけ。山下さん図書委員の当番だって聞いたからちょっと寄ってみたんだ。一緒に帰れるかなって思って」 少し照れたような顔でそう言った戸田くんにとうとう我慢が出来なくなって、私はキッと彼を睨んだ。 「……いい加減にしてくれない?」 「え?」 「私、知ってるんだよ。あの告白が罰ゲームだったってこと」 戸田くんの顔色が変わった。 「あの告白、ゲームに負けた罰ゲームだったんでしょ? 戸田くんが最下位だったから一位の人に命令されてやったんだよね? 私、全部知ってるよ?」 そう言うと、戸田くんの顔がみるみる青ざめる。私はわざとらしく大きな溜息をついた。 「脈なさそうな女に告白してフラれてこいって? それとも遊びで付き合って適当に別れてこいって?」 「そ、そんなわけない! これは、違くて、」 「何が違うの? 実際に私に告白してきたじゃない。私なら簡単に騙せると思った?」 「違う!! そんなこと本当に思ってない!」 「なんで相手が私になったのかは知らないけどさぁ、こういうのって人間として最低だと思う。人の気持ちをなんだと思ってるの? いくらみんなに人気だからって私はそんな人とは付き合えない」 戸田くんがヒュッと息を呑んだ音が聞こえた。その瞬間、私の脳裏にあの日、告白してきた戸田くんの姿が(よぎ)った。真面目な顔で、照れたような声で、熱い眼差しで私を見つめながら「好きだ」と伝えて来た時の姿が。ああもう……なんでこんな時に。私はぎゅっと両手を握りしめる。 「……ですなんて」 「……え?」 「……好きですなんて、そんな簡単に言わないでよ!」 私は勢い良く走り出した。後ろから「山下さん!」という戸田くんの焦った声が聞こえてきたけど、無視して走り続けた。 お願いだから好きですなんて簡単に言わないでよ。……そんなこと言われたら……戸田くんのことが本当に好きな私は、どうしたらいいか分かんなくなるじゃんか。
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