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ちょっと待ってよ!
怒りで疼く背中。
分からないったら、わからない!
「ひどい、お母さん! あたしに何も聞かないで勝手に決めちゃうなんて!!」
ガマンできなくなって、ハアハア言いながら怒り散らかした。
すると肩をいからせながら台所からUターンして戻ってきたお母さんは、あたしの右手からポテトチップスの袋を取り上げ、もっとこわい顔……そう、まさに毎月欠かさずお小遣いで買って読んでる漫画雑誌“シュシュ”で大人気連載中のギャグ漫画“ゆめみるこちゃん”に登場する主人公のオカッパ頭の女の子のお母さん……事あるごとに稲光を背負って怒鳴るシーンがお約束の彼女の様な顔して、
「そんなの聞いたって、どうせあんたの事だから“いやだ”って言うに決まってるでしょ!! 学校から帰ってきては、いっつも部屋でゴロゴロしてばっかりいて……。あんたの将来を心配してお母さんはねえ!!」
お母さんもハアハア言って怒ってる。
気が付けばドア開けっぱなし。
近所に全てが丸聞こえな玄関での母と娘の情けないバトル。軍配はどちらに上がるのか――――
両手をギュッと握り締め、歯ぎしりをしながらお母さんをを睨みつけたあたしだけど、言われた言葉が釘のようになって何本も体に突き刺さり、頭の上から白旗が飛び上がったこんな負け惜しみ丸出しの顔でなんかで対抗したって敵うわけない。
「わかったよ。いくよ、いきます……」
声の大きさ、体の大きさ。それ以前にこうなった原因は自分の要領の悪さ。お母さんの迫力に負け潰されて仕方なく松浦くんの通っている塾に行く事にした。……そうするしかなかった。
『行く』と答えた後、コロッと態度を変えたお母さん。
「あら、そ。良かったワぁ。鷹史くん頭いいし優しくていい子だから安心だわァ。仲良くね」
勝負あり! ――――勝者 ・武藤えみ子。
「ホラ、しっかり腹ごしらえして行くのよー」
落としたジュースと取り上げられたポテトチップスは、あたしの腕の中に強引に抱え込ませられた形で帰還。
はち切れそうなズボンをギュッと上げた横綱力士は勝ち誇った足取りで台所へと消え去った。
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