11人が本棚に入れています
本棚に追加
☆ ★ ☆
いつもなら夕ご飯が出来上がるまでベッドの上でゴロゴロ寛いでられた身分だったのに。
「初日がカンジンよ!」
あたしのお部屋にノックもしないでズカズカ入ってきたお母さんに、読んでた途中の漫画を取り上げられ、ベッドから引きずり下ろされた。
引きずり下ろされながらもしぶとく抱き締めていた腕の中の枕。それに顔を埋めて、まだ心の準備ができてない、ってダダを捏ねてもやっぱり通用しなかった。
「へりくつばっかり言ってんじゃないの!」
バスが来る10分以上も前なのに、夕暮れ時の空の下の玄関の外に追い出され、ドアを閉められた。
しかもこの手さげカバンで。
あたしと一緒に放り出されたカバンを拾い上げる。
これはあたしが小学校に入学する時に、お母さんにミシンでこしらえてもらったいちご柄の手さげカバン。
キルティングの生地は頑丈だから長持ちしちゃってるんだよね。結構使ったのに。
手作りってなかなか捨てられないから、机の横のフックに引っ掛けて多少黒ずんでも大事にとってあるんだ。あの日お父さんとお母さんにお祝いしてもらった思い出と一緒に。
いちご柄。
よりにもよってコレ持って行くんですか……。
「……へりくつだって。だっせ」
あげくの果てに、道路でサッカーボールを蹴って遊んでる近所の小学生の男の子に思いっ切りバカにされた。
恥ずかしい。もうやだ……。
余計に塾に行く気が失せた。バスが来るまでの時間を持て余してたあたしは、歯ぎしりをしながら足元に転がってる小石を力を込めて踏ん付けた。
小石を2つ、3つと踵で踏んづけてグリグリ土に埋め込ませ八つ当たりしてるうちに6:30くらいになったのだろう。白い塗装が所々錆びた古臭い感じのバス(……って言っていいのかワゴン?)が排気音をたてながら来た。
最初のコメントを投稿しよう!