11人が本棚に入れています
本棚に追加
別に早く外に出て待ってなくても、この音で気付くじゃん。
あのお母さんは、自分の事棚に置いといて、人の事となるとせっかちになるタイプ。ホントアレどうにかならないかな。
背後に重たい視線を感じて振り向いてみる。
玄関の隣……リビングの窓のレースカーテンの隙間から『気をつけて行ってらっしゃい』なんかではない、あたかも『逃げるんじゃないよ!』と、疑う表情であたしを見送ってるお母さん。
はいはい……ちゃんと行きます。
行く気満々まんですっ。
バスが来たと同時に、いつも通りの無愛想な顔でおうちから出てきた松浦くん。一応これから(しばらく?)お世話になる身なのだし、何か一言、挨拶みたいな事言っておいた方がいいのかな……。
極力目を合わせたくないけど、上目遣いで見る。お母さんは『優しい』って言うけど、どこをどう見ても恐い。
戸惑いながらも社交辞令。『今日から、よろしくね』と言おうとしたら、後ろに回った彼に背中を押され、「さっさと乗れ」と急かされた。
モタモタしてるとまた何か言われる。
パッと乗り込んで、バスの中を見渡してみた。
どうやら10人くらい乗れる程の小さなバス。あたしと松浦くん以外の生徒はまだ乗ってない。多分これから塾に向かうまでに何人か乗せてくのかもしれない。
そういえばさっきお母さんが『塾までは遠い』だとか何とか言っていた。到着するまで何分くらいかかるのか分かんないけど、遠い塾までバスの中、松浦くんだけを相手に過ごすのはとても気まずい。せめて1人だけでもいいから途中で生徒を拾ってって欲しいって願いながら運転手さんに頭を下げた。
「お、おねがいします……」
運転手さんはあたしの顔を見て微笑んでくれた。
しょうがない。頑張る……しかないもんね。
最初のコメントを投稿しよう!